漂う、暗澹たる気配
王位戦第二局、木村一基王位と藤井聡太七段の対戦は、中盤から終盤に掛けて「劣勢」を強いられた藤井七段が「え!まさか!!!」と誰しも思うような大逆転で勝利し、2連勝、対戦成績を2勝0敗とした。
それにしても藤井七段にとっては身体中に鉛の枷(かせ)を付けられているような、重く、苦しい一戦だった。
それが「相掛かり」という定石の少ない戦型のせいなのか、連戦の疲れによるものなのか、木村王位の巧妙なからめ手によるものなのかは分らない。
が、ともかく藤井七段の差し手からは「覇気」が感じられず、同時に行われている棋聖戦第三局の敗北もあって、「これはやばいかも」という暗澹たる気配が漂っていたのは確かだ。
それはAIによる形勢判断にも現れていて、中盤を迎える頃になると木村王位:藤井七段が64:36くらいとなり、終盤にはついに80:20くらいになってしまった。
一般的に見て、将棋の終盤におけるこの大差は絶望的。
相手がかなりの格下ならともかく(格下ならそもそもそんな大差にならないとも言えるが)、対戦するのはトップ棋士である木村王位である。
実は私はこの時点でAbemaTVの中継を見るのをやめ、シャワーを浴びに行ってしまった。
藤井七段が負けるのを見るのがいたたまれなくなってしまったのだ。
天才は諦めない
しかしさっさと諦めてシャワーを浴びてしまう凡人とは異なり、天才は諦めない。
藤井七段はここから怒濤の反撃を見せたのだ。
一度は見るのをやめたものの、やはり気になりもう一度AbemaTVを見ると、なんと形勢が逆転!
AIの形勢判断は20:80くらいを示し、藤井七段の勝勢となっていた・・・。
絶望的な位置から怒濤の追い込み マチカネフクキタル
私の脳裏には1997年秋の菊花賞トライアル・神戸新聞杯(GⅡ)で、最終の第4コーナー最後方でありながら、そこからの怒濤の追い込みで1着となる 「マチカネフクキタル」 が浮かぶ。
マチカネフクキタルはその後の菊花賞で優勝し、G1ホースとなる名馬だが、ここでは2番人気だった。
レースでは4コーナーを回って最後方。もはや絶望的。
しかも先頭をぶっちぎりで逃げているのは後のG1馬、最強の逃げ馬とも言われる 「異次元の逃亡者」サイレンススズカである。
2番手とは6馬身くらいの距離があり、マチカネフクキタルとはゆうに10馬身以上の差がある。
普通に考えて、どうやっても届かない。
前を走る馬も止まってはいない、走っているのだ。しかも先頭は最強の逃げ馬、サイレンススズカである。
実況のアナウンサーも「サイレンススズカ、これは強い!強い!」と叫んでいる。
しかしその絶望的な位置からマチカネフクキタルは敢然と加速を始めるのだ。
一完歩、一完歩ずつ差を縮め、ゴール前20mで馬体が合い、ゴール直前で差し切った。
マチカネフクキタルは菊の戴冠、さて藤井聡太七段は⁈
マチカネフクキタルは直後の京都新聞杯(GⅡ)も勝ち、本番の菊花賞(GⅠ)で優勝。
栄光のクラッシックホースとなる。
さて、同じく怒濤の大逆転劇を見せた藤井聡太七段には、待望の「福」が来たるのだろうか。
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